壁に立てかける全身鏡と暑い夏 前編

– 全身鏡 –

それは

文字通り自分自身の全てを映し出してくれる不思議な道具

髪型、表情、ファッション、体型

さらには

そこに映り込む自分の ありのままの姿や

何かで覆った自分の偽りの姿

そんな全身鏡を部屋に取り入れる時に

スタンドタイプにするのか

壁にかけるのか

壁に立てかけるのか

果たしてどれを選べばいいのか

人が生きる上での永遠のテーマかと思う

スタンドタイプなら安定はするがデザインが少ない

ではスタンドなしで考えると

持ち家ならば壁に穴を開けて壁に掛けることもできるが

賃貸ならばそうは大家が許可を降ろさない

そもそもどんな家も壁に余計な穴を開けたくはない

そうなれば選択肢は一つ

全身鏡を壁に立てかけるということ

壁に穴も必要なければ 地震で落ちた時の被害は壁掛けよりも小さい

またインテリアとしてこなれた感も出る

良いことづくしの全身鏡壁立てかけスタイルだが

問題もある

それは

ズルズルバタンと倒れてきやすい

およそ背面から倒れるだけで大きな被害が出る可能性は低いだろうが

寝ている時に足が触れたり 小さな子どもがいるところは触ったりして倒れないかと心配になってくるはずだ

そんな難題を克服すべく人々は妙案を生み出した

●重りを置く

●滑り止めを敷く

これにて万事解決

めでたしめでたし

かに思われた

それだけでは解決できなかった男が一人

そう私である

私の立てかけた全身鏡は少しサイズが小さく 傾き具合や距離を変えても

下半身しか映せないのだ

やはり全身鏡である以上全身を映してくれないと困る

いや 下半身鏡を買ってしまったのだろうか

そんな事はもはやどうでもいい

なぜ全てを映してくれない

なぜ ありのままを映してくれない

下半身しか見えない全身鏡を見ながら一人取り残された気分になった私は

耐えきれずその部屋を

飛び出した

つづく


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