壁に立てかける全身鏡と暑い夏 後編

前回のあらすじ

壁に立てかける全身鏡と暑い夏 前編

この全身鏡は少し小さい

壁に立てかけると

下半身しか映らず

それがあまりに切なく

耐えきれなくなった私は部屋を飛び出していた

なぜだ

なぜ壁に立てかけたら全身が映らない

立てかける角度を変えてもだめ

立つ距離を変えてもだめ

じゃあ一体どうすれば

上半身は両ヒザをついて確認しろというのか

そんな事を考えながら歩いていると

どこからともなくおじいさんの美しい歌声が聞こえてきた

太陽も〜 入道雲も 同じ空 〜
映し出すのは 輝きと影〜

意味はよくわからなかったが

おじいさんは歌いながら大きな絵を描いていた 太陽と入道雲が混在する夏の空の絵だ

その絵はなにやら専用の台のようなもので上げて固定されているようだ

なんだこの便利な道具は

そうだ

これだ

角度や距離を変えても全身が映らない鏡ならば 高さを上げてみたらいいじゃないか

『ありがとう おじいさん!!』

そう叫ぶと私はすぐに全速力で帰路へ走った

希望に変わった私の顔からは 光る汗が吹き出していた

帰り着くとすぐ設計図を書き起こす

決まれば勢いと汗もそのままに作り出す

こんな時に捨てずにとっておいた木材が役に立つというものだ

書き起こした設計図から考えて

これだけあればいける

まずは切り分けて何となく形を作ろう

左が本体で右の長いのが後ろから支える木材だ 下の長い木材と短い木材で全身鏡を固定する

インパクトでビス止めしていく

歌うおじいさんは折り畳み式のものを使っていたが私は強度重視の完全固定型でいく

どちらでもいいが

折り畳みにしておけば持ち運びがしやすいし片付け時も邪魔にならないのだろう

よし

これで

完成だ

全身鏡を置いてみよう

いい感じだが色合いに違和感がある

ちょっとだけ塗ろう

室内で使うものだからオイルがいい

いつもお馴染みのワトコオイルだ

塗りすぎないよう自然にまだらに軽く深みを出すイメージで

これで

今度は

どうだ

絵描きさん風 全身鏡の完成だ

気になるのは全身が映るかどうかだが

高さが10センチ上がった事で

上半身から下半身までありのままを映し出す事に成功

やった

ついにやった

たくさんの切なさや苦悩を乗り越えて

さっきまで下半身だけしか映らず見えなかった私の表情は

鏡の中で太陽のように輝いていた

同時に

映し出されるのは輝きだけではないことを知った

終わり


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