すまない。今ひとたび私は、草男となる。ー前編ー

わかっている

もう草は刈らないって

草男にはならないって

あの日の約束

忘れた訳じゃない

わかっている

いつも守れない約束ばかりで本当にすまない

今度もまた

約束破りと呼んでくれ

、、、

、、あれは2年前の夏

連日うだるような暑さだった

頭にタオル一つ巻いた私は来る日も来る日も奥山の山奥の草刈りに挑んでいた

そこに自生する植物は単なる雑草なんかじゃなかった

そう

それはもはやジャングル

タオルで隠さずにはいられない私の髪の毛に似ていた

草刈機を振り上げては叩き斬る

叩き斬っては振り上げる

それはまるで侍が刀を振るう姿そのものだった

今おもえばノコギリで切っていくべきだったと自責の念に堪えない

ただの一本斬り落とすのに乱れる髪の毛は尋常ではなかった

草刈機が雑草を叩くたび前髪が顔面を叩く

水筒の水を頭からかぶる

そのリピテーションを終わらせる方程式などこの剛毛頭に思い付く筈もなかった

顔面にアザ

空に暗雲

立ちこめ出した昼下がり

限界は突然に訪れた

ムバッペ!!

私は雄叫びを上げ

ひざから崩れ落ちた

真っ赤に腫れた顔面を両手で押さえた

激痛で全身が動かない

草刈り機が握れない

剛毛で寝癖が取れない

苦悶に歪む表情に生ぬるい雨が降り落ちた

まぶたに大粒の思いが溢れ出す

まとまりきれない髪の毛が顔面に散らかる

悔し涙は夏の雨で隠せても

伸びかけの髪はタオルなんかじゃ隠せなかった

「おお、、

おお髪よ、、答えてくれ、、私の髪はなぜに剛毛だ

もう、、、私は、、

草すら刈れないのか、、

、、、、、、

、、

そうか、、

初めから無理があったのだ

剛毛な髪の毛のまま草を刈るなど

おお、、髪よ

約束しよう

もう草は刈らない

もう草刈機など握らない

もう二度と

草男に戻る事はない」

私は頭に巻いたタオルを取り涙を拭いた

そして

刈りかけた雑草という名のジャングルに背を向けた

、、、

、、、

、、、、、

あれから2年

男たちはなぜ雑草を刈り続けるのか

雑草はなぜ男たちを駆り立てるのか

近年のツーブロックはなぜ襟足まで刈り上げるのか

かつて封印したその姿は

−草男−

巨大な敵を刈るべく

いまひとたび私は

草男となる

、、続く、、

すまない。今ひとたび私は、草男となる。ー後編ー

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